しばらく前に『ウラニアの鏡』――すなわち、小穴を透かして星座の形を楽しむカードセットの話題を取り上げました。
■ウラニアの鏡
あのとき十分書けずにスルーしてしまったことがあります。
他でもない、この「透過式星図」という形態そのものについてです。上の記事では、ウィキペディアの「ウラニアの鏡」の項を参照しましたが、実はそこにはこういう注目すべき記述がありました。
「イギリスの科学史家イアン・リドパス〔…〕によれば、こうした仕掛けをもった星図集は他に Franz Niklaus Konig の Atlas celeste (1826年)、Friedrich Braun の Himmels-Atlas in transparenten Karten (1850年)、Otto Mollinger の Himmelsatlas (1851年)の3つがあるが、これらには「『ウラニアの鏡』のような芸術性が欠けている」と述べている。」
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私が透過式星図に興味を覚えるのは、それが星図史における「色物」以上の存在だと思うからです。
たしかに、透過式星図は、第一義としては天文学の基礎を学ぶためのツールであり、それを効果的なものとする工夫として、ああいう形式は編み出されたのでしょう。
しかし、それが同時代人の心を捉えたのは、それが「教具」である以前に、一種の「視覚玩具」として受容されたからだと思います。つまり、一見普通の星図が、一瞬で輝く星空に変わるという驚きは、ステレオ写真や幻灯、パノラマ、キネオラマといった、同時代に流行った視覚的娯楽と同質のものであり、透過式星図は、「19世紀視覚文化史」の文脈で捉え返して、はじめてその姿が見えてくる…というのが私見です。(さらに一歩踏み込むと、「見る」ことへのオブセッションこそ、当時の天文趣味隆盛の要因なのでしょう。)
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さて、前口上はこれぐらいにして、リドパス氏が挙げた3種の星図を順々に見てみたいのですが、透過式星図といえば、以下の星図も絶対に外せないので、まずそちらを一瞥しておきます。
■James Reynolds(著)
『Reynolds' Series of Astronomical and Geographical Diagrams』
(レイノルズ天文・地学図譜)
James Reynolds(London)、1850頃
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