時計を見ると、もう八時になっている。
〔…〕で、早々に立ち上がってKに失敬した。
友人Kが開店準備中のレコード屋で、「私」は1時間ばかりレコードを聞かせてもらい、おもむろに辞去します。
ぞろぞろと、人が出さかり初めた賑やかな通りをぬけて、私は三角形になった辻に出た。「さて、電車に乗ろうか?」と思ったが、何となく気分の爽快な夜であるし、ブラブラと歩いて帰るのも一興だろうと、私は中山手通りの南側の歩道を、コツコツと西へ歩を進めた。
「電車に乗ろうか?」の言葉から、「私」は今電停のそばにいるようです。
生田神社の最寄り電停は「中山手一丁目」で、ここは5差路にも6差路にも見える複雑な交差点です。はすかいになった道筋は、そこに三角形の小街区を形成しており、「三角形の辻」とはそれを指しているのではないかと想像します。
(MAP 4:生田神社脇から西へ)
結局、「私」は路面電車に乗るのをやめて、中山手通りを西に歩き出します。そうすると実際には自宅から遠ざかることになるのですが、この晩は興に乗って、わざと遠回りして帰ることにしたのでしょう。
もうこのあたりは、人通りがほんのチラホラ見える切りだ。両側の家は大方、植込につつまれた西洋館で、このうす暗い広い路の左右にならんでいる瓦斯燈が、殊の他、静かな街区にふさわしい美観をそえている。
〔…〕私は又あたりを見まわさないではおられなかったと云うのは、そこはほんとうに私の好きな、これこそ注文通りとでも云いたい山手通りの美しい夜なのである。〔…〕遠い辻に現れて、又どこかへ消えて行くギラギラ目玉を光らした自動車や、又、前後からゴーッと通りぬけて行く明々としたボギー電車のなかに、非常にきれいな夢―言葉はおかしいが、そう云った感じのものが載っているような気がするのである。〔…〕ちょっと表現派の舞台を歩いているような感じを起させる。
周囲には静かで謎めいた、“表現派”風の街並みが続きます。
そこを抜けると、再び賑わいのあるエリアに出ます。
で、こうして、私の足はともかく、坂上の緑色の灯の下までやって来たのである。〔…〕私はやはりそのままに、南側の歩道にそって、坂下に向って歩きつづけたのである。このあたりには、カフェや、ビリヤードホールがあって、人影も又かなりたくさんに見かけられる。ところが、ありや、たしか中山手三丁目の辻だったろうか、何にせよ、新規に建った四階の石造の小学校から、A公園までの中間であった。
さて、「私」は今どこにいるのか?
文中には「中山手三丁目の辻」
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