突如の雷鳴と豪雨。遠くの街の明かりが霞んで見えないほどです。
さて、「蝶凧(パピイ)」の話題は、ちょっと画像の準備の都合で、後程もういっぺん触れることにして、少しストーリーを先に進めます。
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地下鉄のホームで、水蓮と銅貨が毎朝待ち合わせる場所は決まっています。
そこは、二人にとっては思い出のある、お気に入りの場所。
二人が出会ったのは3年前、こちらの世界で言えば、小学校高学年の頃の、ある冬の日でした。転校生然とした真新しい制服に身を包んだ水蓮に、銅貨の方から声をかけると、水蓮も笑いながら答えました。
「よろしく、ぼくは第七学級〔クラス〕だけど、きみ同じ学年。」
そう云った水蓮は、頬など透徹るほど白く、端正な顔だちをしていた。
「生憎と、そうらしい。」
銅貨の人を喰った返事に、ふたりは同時に噴き出した。そのあとプラネタリウムの広告燈〔ネオン〕のことに話がおよび、すぐに意気投合した。銅貨がそれとなく勘づいたとおり、水蓮は偶然ではなく意識してこの広告燈〔ネオン〕の見える場所を選んで、地下鉄を待っていたのだと云う。
ほとんど乗客のない地下鉄の車内で、銅貨と水蓮は互いに鉱石や天体に強く興味を持っていることを確認しあった。(p.18)
このプラネタリウムの広告が見える場所が、今でも二人の暗黙の定位置。
たいてい水蓮のほうが先に来て、あのプラネタリウムの広告燈〔ネオン〕が正面に見える花崗岩〔みかげ〕の円柱にもたれかかっていた。(p.10)
ここに繰り返し出てくる「プラネタリウムの広告燈」こそ、「未来の世界なのに懐かしい」、この作品世界を象徴する存在だと言えます。かと言って、それはいわゆる「レトロフューチャー」とも違います。いうなれば文字通りのレトロ。つまり近未来に設定された舞台に、異様に古めかしいものが突如顔を出し、しかも全体として違和感がないという、独特の世界描写です。
そのうちに七時半発の地下鉄が近づいて、轟音にかぶさるように入線案内が繰り返される。
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