『日本産有尾類総説』を読む(4)
2024-07-27


本書のいちばんの見どころが、31葉のカラー図版で、これらはすべて本文の後にまとめて綴じられています。

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(第2図版。チョウセンサンショウウオ)

「31葉」という言い方は、「31頁」だとしっくりこないからで、実際どうなっているかというと、上のように厚手のアート紙に刷られた図版が向かって右、その対向頁(向かって左)に薄手の紙に刷られた説明文が並んでおり、それが都合31組あるわけです(図版の裏面は白紙になっています)。

これらの図について、凡例ページには、「本書の原色図版は総て画伯吉岡一氏の筆になるものである。十余年にわたって終始一貫、予が各地から活きたまま齎〔もたら〕したものを写生された御厚意御努力に対して深謝の意を表する」と書かれています。吉岡一画伯については未詳。検索すると、1930年生まれの同名の洋画家がすぐにヒットしますが、もちろん別人でしょう。(たぶん地元・広島の画人だと思います。)

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その印刷の精度を見るため、上の図版を拡大してみます。

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さらに拡大。

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さらに拡大鏡で覗くと網点が見えてきます。

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技法としては、現在も広く使われる青(シアン)・赤(マゼンダ)・黄・黒の4色分解で、そこに何か特別な技があるわけではありません。しかし、太平洋戦争の真っ只中、印刷用紙の入手すら困難だった時代に、これだけ上質の紙を揃え、インクが匂い立つような原色図版を刷り上げることが、どれほど大変だったか、そのことに思いをはせる必要があります。

そして、この図版には原色版という以外に、ある贅沢な細工が施されています。

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各図版は全体を囲む圧痕が見られるのですが、この図版はおそらく平版ですから、印刷のために圧をかける必要はなく、これは図を引き立てる装飾的なフレームとして、エンボス加工を施したのだと思います。

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よく見ると、図版右肩の図版番号も空押しになっていて、ものすごく凝っています。著者と関係者が、いかにこの図版に愛情と熱意を注いだか分かります。

同じく凡例には、

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