(オジギソウ Mimosa pudica. ウィキペディアより)
オジギソウが葉を閉じるのは、虫の食害を逃れるためだ…という研究成果を、先日ニュースで見ましたが、これに関連して、中日新聞の一面コラム「中日春秋」に、次のような文章が載っていました(11月19日)。
「オジギソウは学校の教材でおなじみ。触るとお辞儀をするように葉を閉じる▼含羞草とも書くのは、恥じらっているように見えるからか。原産地はブラジル。天保年間に日本に伝わった▼ギリシャ神話にも登場。『花とギリシア神話』(白幡節子著)によると、美しい娘である妖精ケフィサは牧羊などを司る神パンに好かれ追い掛けられるが、その情熱に恐れをなし逃げ続けた。とらえられそうになった時に貞操の女神アルテミスに「助けて」と祈り、オジギソウに姿を変え逃れた。なるほど、恥じらいの草である▼この植物が葉を閉じるのは昆虫に葉を食べられるのを防ぐためであることを、埼玉大と基礎生物学研究所(愛知県)のグループが証明したという〔…中略…〕▼神話はこの植物を「感受性がとても強く、罪を犯した者がそばを通るだけで、まるで自分が触れられ、汚されたかのように葉を閉じる」と描く。現実は近くを通るだけでは閉じないが、触れた虫の脚を封じるとはたくましい。自然界は、恥じらうだけでは生きられぬらしい。」
これを読んで、息子が言いました。
「ブラジル原産なのに、なぜギリシャ神話に登場するのか?」と。これは息子のお手柄で、なるほど、そういわれれば確かに変です。史前帰化植物というのもあるので、最初はそれかと思いましたが、さすがに大西洋を越えるのは難しいでしょう。
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上のコラムに出てくる『花とギリシア神話』(八坂書房、1992)の「あとがき」を見ると、同書の参考書として、ブルフィンチ著『ギリシア・ローマ神話』、オウィディウスの『変身物語』、呉茂一著『ギリシア神話』など5冊が挙がっていますが、オジギソウの逸話は、そこに見つけられませんでした(探し方が悪いだけかもしれませんが)。それに「ケフィサ」という妖精の名が、『ギリシア神話事典』の類を、いくらひっくり返しても出てこないのが不審です。
「うーむ」と腕組みをしつつ、ちょっと表面をなでただけで、以下推測でものを言います。
最初に結論を言っておくと、これはやっぱり変な話で、どこかでアヤシイ話が混入している気配が濃厚です。
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この話の大本は、たぶんですが、Charles M. Skinnnerという人の『Myths and legends of flowers, trees, fruites, and plants in all ages and all climes』(1911)ではないかと思います。この本はさいわい邦訳が出ているので(垂水雄二・福屋正修(訳)『花の神話と伝説』、八坂書房、1985)、そこから該当記述を抜き書きしてみます。
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