星座絵の系譜(3)…ボーデ『ウラノグラフィア』
2020-07-21


『ウラノグラフィア』(1801)は星図界の巨人です。

そのサイズは、高さは65cm、幅は45.5cm、星図自体はその見開きですから、幅90cmを超えます。普通の新聞紙が、高さ54.5cm、幅40.6cmなので、それよりもさらに巨大です。

物理サイズだけではありません。『ウラノグラフィア』は、星図界にそびえる四天王(ビッグフォー)【参照】の一角を占め、その掉尾を飾る作品です(他の3つは、バイエル『ウラノメトリア』(1603)、へヴェリウス『ソビエスキの蒼穹―ウラノグラフィア』(1687)、フラムスティード『天球図譜』(1729))。その意味でも、堂々たる巨人です。

一般読者に向けて、絵入りの星図はその後も作られ続けましたが――ジェミーソンの星図帳がまさにそうです――、プロユースの本格的な星図に星座絵が載ることは、『ウラノグラフィア』を最後になくなったので、これは一つの時代の終わりを告げる、「エポックエンディング」な作品でもありました。

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ジェミーソンの星図には、『ウラノグラフィア』も影響を及ぼしているようだ…と聞いて、それを実際に確認してみます。サンプルは例によってはくちょう座です。

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どうでしょう、レイアウトも含めて、あんまり似てはいないですね。
たしかにはくちょう座の姿は似ていますが、これは翼を広げて飛ぶ白鳥を下から見上げれば、誰が描いても自ずと似通ってくるので、あまり指標にはなりません。

それよりも目に付くのは、その隣のこと座で、普通の竪琴と猛禽の姿が組み合わされて描かれています。かたわらの文字も「VULTUR ET LYRA(ハゲタカと琴)」。これは、こと座の主星ベガが、元のアラビア語で「舞い降りるハゲタカ」の意味であることに由来する図像化のようです。古くはデューラーの描いた北天星図(1515)にも、同様の表現があるとウィキペディアに教えられて、見に行ったら確かにそうでした。

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(デューラーの北天星図・部分)

ボーデがなぜ19世紀に入ってから、こういう古風なイメージを持ち出したかはナゾですが、「エポックエンディング」にふさわしいといえば、ふさわしい。

【2020.7.24付記】 その後、いろいろ星図帳を見ていたら、バイエルもヘヴェリウスも「こと座」に猛禽をインポーズしていたので、これはフラムスティードの方がむしろ例外です。(付記ここまで)

いずれにしても、ジェミーソンが星座絵の下敷きにしたのは、同じボーデの作品でも、『ウラノグラフィア』ではなく、もっぱら『星座紹介』の方だったと言えそうです。

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