ライクロフト氏の植物趣味の実践を活写した章があります。
<秋 第1章>
今年は天気続きの年だった。不愉快な空模様とてもほとんどなく、くる月もくる月もいつのまにかすぎていった。いつ七月が八月になったのか、八月が九月になったのか、ほとんど私には見当もつかなかった。野原の小径が秋の花々で黄色くふち取られているのを見なかったならば、今でもなお夏だと私は思うかもしれない。
「やなぎたんぽぽ」属のことで私は多忙をきわめている。つまり、できるだけ多くの「やなぎたんぽぼ」の類を区別し、名前を覚えることを勉強中なのだ。科学的な分類ということには、私はあまり関心はない。そんなことは、私のものの考え方と性が合わないのだ。だが、私は散歩の途中出会うすべての花を一つ一つ名ざして呼べるようになりたい。それも特にそのもの固有の名前で呼んでやりたいのだ。「ああ、これは『やなぎたんぽぽ』だ」というような言葉で満足しなければならぬいわれはない。それは、すべての黄色い舌状花の草花を「たんぽぽ」一点張りで片づけてしまうことがひどいのと、ほとんど変わりはなかろう。花もその個性を認めてもらうと喜ぶように私には感じられるのだ。ひとつびとつの花にどれほど多くの恩恵を私が負うているかを考えると、せめて私にできることは、一つ一つの花に挨拶するということである。同じ理由から私は「ヒエラキウム」という学名よりも「やなぎたんぽぼ」という名で呼びたい。平凡な呼び名の方が親しみをより多くもっているものだ。
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「やなぎたんぽぽ」 Hawkweed (そのラテン語の学名が「ヒエラキウム」Hieracium)
(Hieracium caespitosum)
「たんぽぽ」 Dandelion
Dandelionは、日本でいうところのタンポポ(キク科タンポポ属)と同じものですが、ここではタンポポ以外のキク科植物もひっくるめて、黄色ければ何でも「タンポポ」と呼んでしまう無神経な態度を非難しているようです。
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前回引用したライクロフト氏の文章もそうですが、これこそ人として真に豊かな生活だ…と一途に思い込んだ私は、さっそく書店に行き、植物図鑑を買い込みました。
(開いているのは、保育社の『原色日本植物図鑑・草本編U』
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