病膏肓に入る
2017-10-15


仏文学者にして古書蒐集家である、鹿島茂氏のことは、以前も触れました。

鹿島氏のフィールドは、主に19〜20世紀初頭のフランス古書で、当時の文学や文壇の話題に始まり、さらにはパリを中心とする風俗史全般へとその興味関心は広がり、今やその分野の蔵書に関しては、質・量ともに内外随一である…と聞き及びます。

ただ、その鹿島氏が最近――というよりも随分前から、古書以外にも、いろいろコレクションに励まれていて、その戦果が、『病膏肓(やまいこうこう)に入る―鹿島茂の何でもコレクション』という、かなりえげつないタイトルの本になる程だとは、つい最近まで知らずにいました。そして、本を手に取って、「うーむ、これは…」と、改めて唸ったのでした。

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■鹿島 茂
 『病膏肓(やまいこうこう)に入る―鹿島茂の何でもコレクション』
 生活の友社、2017

元は『アートコレクターズ』という雑誌に連載されていた文章をまとめたもので、連載自体は、2011〜15年にかけてだそうですから、結構前のことです。

掲載誌の性格によるのか、ここで開陳されているアイテムは、塑像や油彩画、版画など、いわゆる「アート」に分類される品が多いのですが、それだけにとどまらず、空き缶、灰皿、木靴、鉄道模型、ミニカー、人形、はては「世界の独裁者コレクション」のような、もはやフランスともパリとも全く関係ない品も多く登場しており、文字どおり病膏肓に入る感じが濃いです。

   ★

で、私が何に対して「うーむ、これは…」と思ったかといえば、鹿島氏は、それら雑多のものを蒐集するにあたって、いろいろ「大義」を述べておられるのですが、それを読みながら、何となく背筋に冷たいものが走ったからです。

氏曰く、“これは今度の○○展の肉付けに不可欠のモノだ。これはあの小説に登場する重要なアイテムで、あの小説好きならぜひ手元に置かねば。これは今やレアな品になりつつあるが、値段はまださほどでもない。これをコレクションせずして何とする。これは見た瞬間一目ぼれだった。しかも、こっそり調べたら思わぬ掘り出し物だ。これを買わない手はない”…とか何とか。

鹿島氏はこうも述べています。「ただ、なんでも闇雲にコレクションしているかといえば、そうでもない。私なりにこだわりのあるテーマについてだけコレクションを行なっているつもりなのである」(p.18)

その言葉に、微塵も嘘は感じられません。しかし、言行がどこまで一致しているかといえば、いささか覚束ないところもあります。「要は、何でもよいのではないか…」と、この本を手にした人は思うでしょう。

もちろん、鹿島氏はそうした自身の心の動きについて、かなり自覚的な所があります。氏は本文でも「あとがき」でも、パスカルの言葉を引き合いに出しながら、

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[古玩随想]

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