石版のことで補足しておくと、石版にも写真版があります。
20世紀初頭の絵葉書はそれがスタンダードで、たとえば下の絵葉書もそうです。
被写体はマサチューセッツの名門女子大、スミス・カレッジ附属天文台。
石版の写真に手彩色したもので、1901〜07年頃のものです。
拡大すると、ちょっとザラッとした感じはありますが、網点がまったくないのが気持ち良い。でも、これはいったいどうやって版を作ったのか?
★
これも今回初めて知ったことですが、石版の製版には「直描法」(解き墨やクレヨンなどを用いて、石版面に直接描画製版を行なうもので、一番広く用いられた方法)の他に、「転写法」というのがあり、これまた広く用いられた技法だそうです。そして、この絵葉書は、その転写法によって製版されたものなのでした。
これも前掲の『印刷製版技術講座』から引用します。
■転写法〔…〕は直接、石版石の面に脂肪墨液やクレオンを用いて描画する代りに一度転写紙面に描画して、それから石版石面に転写して所要の版面をつくる方法である。〔…〕転写を行なうには、転写紙と転写インキ、転写器械などが入用である。〔…〕
転写紙は紙面に適当な糊を塗布したものである。この糊層の表面に脂肪墨液で描画して、それを石面に伏せ、圧力を加えて石版石面に転写し、紙の裏面から水分を与えると、その水分のために紙と糊とがはがれ、糊面に描画した脂肪性の図画はみな石版石の方に移ってしまう。〔…〕石版の製版にはその目的によってそれぞれ異なった転写紙を用いるべきであるが、わが国ではコロムペーパーという転写紙を広く用いている。〔…〕このほか写真石版用の転写紙は原図を複写したネガから焼付けるために感光性転写紙などが用いられて来た。(4巻、pp.12-13)
感光性転写紙の組成はよく分かりませんが、それによって写真のネガから、石版に転写できるポジ画像を得ていたわけです。
★
さて、個人的にはあまり好ましからざる網点ですが、印刷術における大きな技術革新には違いなく、それによって大きな恩恵を被っていることも確かなので、その歴史を、長文の引用になりますが、資料として掲出しておきます。出典は、同じく『印刷製版技術講座』第1巻、pp.44-45です。(読みやすいように、適宜改行して引用。行頭1字下げは原文でも改段落している箇所)
■網版の創始者としては次の2人が一般に認められている。すなわちアメリカ人のフレデリック=ユージェン=アイヴス(Frederic Eugene Ives, 1856〜1937)とドイツ人のゲオルグ=マイゼンバッハ(Georg Meisenbach, 1841〜1922)である。
セコメントをする