このとき、足穂は神戸をいわば「異邦人」として見る目を獲得し、それが「星を売る店」執筆の原動力となったのではないか…と私は想像します。足穂の「勘違い」も、彼の心の中の神戸地図に、突如として出現した、この奇妙な一角の影響かもしれません。
作中、「私」が「南側の歩道」にこだわったのも道理で、仮に北側の歩道を歩いていたら、そのまま中山手通りを直進する形になり、この新しい街路に踏み込むことはなかったでしょう。これは必然的に南側でなければなりません。
なお、この経路を歩くと、山手小学校の脇ではなく、その1ブロック南を通過することになりますが、それでもあえて小学校に言及したのは、足穂がこの場所を実見したとき、校舎建て替えのため、女学校の校地が一時更地になっていたため、山手小学校が素通しで見えたからだと推測します。
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さて、こうして、「私」は山手小学校と大倉山公園の中間にある交差点までやってきました。「私」はここで道路を渡って北側に移ろうとして、ついに「星店」を発見します。
その辻から、北側の歩道にうつろうとした私は、辻をへだてた向うに―即ち、まんなかにスクエヤーをはさんだ歩道の私が立っている対辺のところに、青くかがやいた一つの美しいショーウィンドーを見たのである。
(画面をスクロールするのが面倒くさいので、MAP 6を再掲)
その場所は、下山手通5、6、7丁目の交差点のうちのどれか。
以前ご紹介した(
[URL])、
『ハイカラ神戸幻視行』の著者・西秋生氏は、7丁目説をとります。しかし、私はここであえて6丁目説をとりたいと思います。
さして深い理由はないのですが、6丁目のほうが、より小学校と公園の中間点に近いし、「私」がここで道路を渡ったのは、そろそろ家路に就こうとしたからだと思うのですが、そのためには6丁目の方が動線がスムーズだからです。
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もちろん真実は分かりません。
でも、現時点では「下山手6丁目交差点の西北角」を第一候補に推します。
地図上で青い星マークを付けた位置がそれ。これぞ「星店」の立っていたとおぼしき場所。(これは現在の「下山手6丁目」の表示信号よりも、1本西の筋になります。「星店」の位置には、現在ガソリンスタンドが営業しています。)
ストリートビューの画像を借りると、今ではこんな光景(矢印がガソリンスタンド)で、いくぶん散文的なムードであることは否めません。でも、若き日の足穂が見たら、このマッチ箱のような建物群こそ「表現派」めいて感じられたかもしれません。(お向かいの「アストロ工具」さんが、ちょっと星っぽいですね。)
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