白夜に耳を澄ます
2014-06-21


夏至。梅雨空はまだしばらく続きそうです。

北極圏ばかりでなく、この日本も今は「白夜」の季節。
蒸し蒸しとして、今にも降りだしそうな晩は、雲底が白くぼんやりと街の明かりを反射しているばかりで、星の光なんてこれっぽっちも見えません。

それでも耳を澄ませば、いつだって星の歌が聞こえるよ…と教えてくれる美しい本。

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寮美千子(作)、高橋常政(絵)
  『ほしがうたっている』
  思索社、1992

電波天文学をテーマにした、おそらく初めての絵本です。
1992年というのは、国立天文台野辺山観測所に展開する、純白の電波ヘリオグラフが完成した年であり、さらに野辺山の主鏡、45メートル径のミリ波電波望遠鏡が完成して10年目。この絵本にはそれらを祝う意味があり、元観測所長の森本雅樹氏が一文を寄せています。

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地球はいつだって歌声に満ちている。
虫も、コウモリも、クジラもさかんに歌っている。
でも、ヒトの可聴域にない音は一切聞こえない。

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宇宙も星の歌声で満ちている。
今も光る星、今は消えた星。あちらこちらから聞こえてくる、大小の鈴の音。
その一部を人間の目が捉え、光として認識し、美を感じ、永遠を思う。

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純白のアンテナは、人間には聞き取れない声も受け止めて、我々に伝えてくれます。
その中には、星間を満たすガスの雲や、地表を覆う水蒸気の雲をも突き抜けて、遠いところからいつでも聞こえてくる歌声もあります。

   ★

1992年は、私が初めて子を授かった年です。
あの時の光、あの時の世界、あの時の自分。

その当時、地球が発した声は、電磁波の幅広い帯域に乗って、今や半径22光年の球殻を形成し、なおも拡大中です。その球殻に私自身が再び触れることはありません。(まあ宇宙の構造次第では、永い時を経て、再びこの宙域に戻ってくる可能性がなくもありませんが、私という存在は消えて久しいでしょう。)

しかし、ヒトには想像する力があり、遠くの星で耳を澄ませば、地球が発した歌声が今日も頭上から聞こえているに違いないのです。
[天文古書]
[天文台]
[望遠鏡]

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