天文古書の黄昏(1)
2014-02-18


昨日の「たそがれ部屋」は、一種の心象風景です。
そして、この部屋には、また別の黄昏がヒタヒタと忍び寄っているのです。
それは天文古書の黄昏。

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「昨年、天文学史のコミュニティと固く結びついた貴重な店が、37年間に及ぶその歴史に幕を下ろした。
 マサチューセッツ州バーナードストン在住の天文古書の専門家、ポール・ルーサーが本の売買を始めたのは、1976年のことだ。彼はカタログを発行し、資料探しを手伝い、本を値踏みし、店頭販売を行った。私が彼を知ったのは、1970年代の終わりに「スカイ・アンド・テレスコープ」誌に載ったその広告を通じてである。」

…という書き出しの投稿を、天文学史のメーリングリストで目にしたのは、今月8日のことです。投稿者の「私」とは、ルーサー氏と同じくマサチューセッツに住む天文家で、地元の科学館スタッフである、リチャード・サンダーソン氏。

私はかつてサンダーソン氏のコラムで天文アンティークの存在を知り、さらに直接メールで教えを乞い、天文古玩的世界に足を踏み入れたので、いわばその道の師匠に当たる人です(参照 [URL])。

サンダーソン氏はふだんメーリングリストの熱心な投稿者でもないので、そのお名前がパッと目についたのですが、話題の主であるポール・ルーサー氏も、私にとっては思い出深い名前であり、いったいどんなことが書かれているのか、思わず目をそばだてました。

「ルーサーは本を売ることで生活費を稼いだが、彼が提供したのは、単なる本以上のものだった。彼は多くの天文学史研究者、著述家、コレクターたちの友人であり、同僚でもあった。ポールは古い天文学書とその著者に関して、百科全書的知識を有し、その知識を惜しみなく分け与えてくれた。おかげで、私が長年購入してきた本たちの魅力も大いに増した。70年代当時の私にとって、天文古書の収集は芽吹いたばかりの趣味だったが、彼はそれを生涯にわたる情熱へと育ててくれたのだ。

ルーサーの書籍販売の経歴のうちには、多くの山場があった。1978年、彼はパーシヴァル・ローエルの有名な『火星』を、上質のハードカバー版として限定1000部で復刻した。同年、彼は「月刊・書籍と天文家」を発刊し、これは1980年まで続いた。ルーサーは「天文学史資料センター」の創設に努力し、もし必要な資金さえ集まっていたなら、それはきっと天文学史研究者のメッカになっていただろう。

このメーリングリストのメンバーの中には、1979年の7月14日と15日に、マサチューセッツ州グリーンフィールドで開催された、ポール・ルーサーの天文古書オークションに参加された方がおいでかもしれない。そこには16世紀まで遡る、500点以上もの文書が出品された。私の手元には、今でもこの記念すべきイベント会場から持ち帰った、ギャレット・サーヴィスの天文書全冊と、フラマリオンの『大気The Atmosphere』の美本が残されている。

ポール・ルーサーは何冊かの大部な書誌を出版し、天文古書研究に重要な貢献をした。彼が1989年に出した『天文家に関する書誌 Bibliography of Astronomers』は、500部限定で、19世紀の有名な天文著述家14名の著作を、微に入り細にわたってまとめたものである。2001年、ルーサーはコネティカットのマルチノ出版社と組んで、1890年に初版が出た『エジンバラ王立天文台クロウフォード文庫目録 Catalogue of the Crawford Library of the Royal Observatory, Edinburgh』の新装版を出した。その5年後、ルーサーとマルチノ社は、1884年にまとめられた『

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