記事の間が空きましたが、前回の続きです。
「月下の男女」の画題は、考えてみるとなかなか興味深いものがあって、男女の方はさておくとして、ここに登場するいわゆる「月の男(The man in the moon)」の描かれ方が、大いに気になります。
もう少し類例を見てみます。
(エンボス加工を施した多色石版。ニューヨークのA. S. Meeker社製)
こちらは月下の接吻。
1908年9月、バージニア州ノーフォークの James 君が Miss May に当てたもの。「O Glee! Be Sweet to me Kid.(おお、愛しの君よ!どうぞ僕に優しくしておくれ)」と、James 君はだいぶ気持ちが高ぶっているようですが、しかしこの月の表情はなかなかどうして、一筋縄ではいきそうにありません。
(1898年、ウィーンで創業したKohn 兄弟社(Bruder Kohn Wien I;BKWI)製の石版絵葉書。ちなみに「Wien I」は、創業地の「ウィーン一番区」の意味
【LINK】)
こちらはペーパームーンの趣向によるコミック絵葉書で、ベルギーのリールの消印(1904年付け)が押されています。あて先は「Mademoiselle Elise」で、差出し人は表面に書かれた Peeraer 氏でしょう(見慣れぬ姓ですが、ベルギー由来の名前だそうです)。
ペーパームーンとは「張りぼての月」のことで、当時、夜空の書き割りの前でペーパームーンに坐って記念写真を撮ることが欧米で大層流行ったと聞きます。
絵葉書の画面では、せっかくいいムードなのに、突如“破局”が訪れて男女はびっくり、お月様もポロポロ泣いています。でもこれは、その身を傷つけられて痛がってるだけのようでもあり、そうなるとこのお月様にしても、カップルに対して同情的というよりも、単に迷惑千万と思っているに過ぎないことになります。
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20世紀初頭とおぼしいアメリカ製の多色石版絵葉書。
このお月様が、地上のカップルを見守る表情もちょっと微妙です。
この絵葉書は仕掛け絵葉書になっていて、「夢が叶うかどうか、月にきいてごらん」という、その答は…
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