年を経るごとにだんだんいい加減になってきているものの、年の暮れともなれば、やっぱり大掃除をしないと落ち着きません。というか、「大掃除のときにやろう」と先送りしていた課題が山積みで、いよいよやらざるを得ないというのが実情です。
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とはいえ、忙中おのずから閑あり。
大掃除の合間に、師走の町でのんびり古本を探す折もあります。最近、動植物などの博物系の本を買うことが少なかったですが、のんびり気分にはのんびりした本がいいと思って、一冊のキノコの本を買いました。
『岡山県菌類方言図譜』。
和本仕立てで、それだけでものんびりした感じですが、中身がまた「ガリ版手彩色」という素朴な印刷で、一層のんびり感を掻き立てます。
本書はその名の通り、岡山県内における、各種キノコの地方的呼称を図入りで類纂したものです。図は原則としてすべて実物大、そこに淡彩を施し、きのこの名称を添えていますが、昔は食用キノコにしても、村々の狭い生活圏の中で流通が完結していたのか、岡山県の中でも、その名称は実に多様です。上の右図では、「マツタケモドキ(赤磐郡葛富村)」、「シバタケ(岡山市)」、「オバサン、マッタケノオバサン(久米郡加美村)」という4つの名を挙げています。
上の図は堂々とした、いかにも人目につきやすいキノコですが、
村人たちは、このように地味なキノコにも目を留めて、名を与えていました。ただ、和気郡伊里(いり)村の人は、いずれも「モトヨセダケ(モトヨセタケ)」と同じ名で呼んでいたものの、これはどうみても違う種類だろう…ということで、著者は別図で紹介しています(他にも同名異種のものがいくつかあって、これらもすべて別図に描かれています)。
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さて、本書の書誌と成立事情です。
奥付を見ると、発行は昭和8年(1933)12月、著作者は桂又三郎、発行・印刷所は中国民俗学会となっています。住所は同じなので、同学会を主宰していたのが桂又三郎であり、その自宅に事務局を置いていたのでしょう。
桂又三郎(1901〓1986)は、国会図書館のデータベースによると、昭和初年から岡山県の方言と民俗に関する著作を次々と発表し、当初はもっぱら岡山県の郷土史家として活動していましたが、その後、備前焼の研究に進み、戦後は備前焼をはじめとする古陶研究家として知られた人です。
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