――賢治先生!
おや、あなたは?
――はじめまして。先生がボクのことをご存知ないのは当然です。ボクは先生没後のファンなんです。
ああ、そうなんですね。
――このたびは没後90周年、おめでとうございます。
ありがとう…というのも妙な気分ですが、もうそんなになりますか。
――ええ。何せ先生が亡くなられた後に生まれたボクの父が、先年老衰で亡くなったぐらいですから。
なるほど。でもそんなに長い間、私のことを覚えていてくれる人がいて嬉しいです。
――ボクだけじゃありません。本当に多くの人が先生のことを思ってるんです。
それをうかがうと、私がなかなか彼岸に出立する決心が付かなかったのも道理ですね。
――先生のお袖を引いたみたいで申し訳ありません。でもお会いできてよかった。そういえば、お彼岸の時期には間に合いませんでしたが、先生の旅のお供にと思って、こんなものを見つけました。
おや、これは?
――盛岡高等農林特製のクールミルク…先生はこの品をご記憶じゃありませんか?ぜひ母校の味を味わっていただければと思ったんですが。
これはありがとう。懐かしいですね。ただ、これは私の在学中の品じゃありません。もう少し後に出たものでしょう。
――それはちょっぴり残念です。でも、お口にされたことは?
ええ、飲んだことがあるのは確かです。でも味の記憶がちょっと曖昧で…。
――何だか微妙な感じですね。
(旧・盛岡高等農林学校 門番所。ウィキペディアより)
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