寝ぼけ声
2023-08-29


「ひょっとして、あいつは暑さで頓死したな?」と思われたかもしれません。
しかし、こうして無事生きています。生物界には冬眠と対になる「夏眠」というのがありますが、私も酷暑を避けてしばらく夏眠状態にあったわけです。でも、8月も終わりですから、そろそろ夏眠から覚めなくてはなりません。春の啓蟄に対し、秋の啓蟄がもう一つほしいところです。

しかし夏眠から覚めてあたりを見渡すと、世の中どうも芳しくないニュースが多いですね。目覚めの一言も、ちょっと無粋なところから始めます。

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昔、中学だか高校だかの頃、アイザック・アシモフが「疑似科学」に論駁する本を読んで、おおいに溜飲を下げたことがあります。いわゆる「とんでも学説」を、まさに快刀乱麻を断つように切り捨てていく様は痛快であり、なんだか読んでいる自分まで賢くなったような気がしたものです。実際、アシモフはものすごく頭の切れる人だったのでしょう。

ただ、その中でひとつモヤっとするエピソードがありました。
健康食品に関する文章で、アシモフはヨーグルトが身体にいいという説を一蹴して、「ヨーグルトには牛乳に含まれる以上の栄養素はない!」と切って捨てていました。

それはそれで正しい陳述です。
腸内フローラの研究史は17世紀のレーウェンフックにまで遡るそうですが、その機能に関する研究はだいぶ紆余曲折があって、「ヨーグルトは不老長寿の霊薬」みたいな怪しげな言説も入り混じっていたので、アシモフがそれを疑似科学と切って捨てたのは、理解できなくもないです。ただ、結果的に彼が「食品がもたらすプラスの効果は、すべて栄養素の効果に還元できる」としたのは、あまりにも単純素朴な考えで、そこには大きな見落としがありました。

いかに既存の科学知識で武装しても――その武装がどれほど完璧なものであっても――そこには常に思考の盲点がありうるし、ときにその盲点は、広大な視野の欠落であると後に判明することもあります。アシモフほどの人でも、そこから逃れることはできませんでした。

この一件は私にとって非常に重要な教訓になっていて、今でも折に触れて思い出します。

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原発「処理水」の海洋放出をめぐって、ネット上で半可通めいた人々が議論しているのを見ると、やっぱり上のことを思い出します。

最初に私の立場をはっきりさせておくと、私は海洋放出に反対です。
海洋中の物質動態は今も不明な点だらけのはずで、環境への影響を考えれば、放出には常に謙抑的であるべきです。それをごく狭い了見にもとづいて、「大丈夫、大丈夫!」と見切り発車するのは、盲者蛇に怖じずというか、蛮勇と呼ぶほかないのではないでしょうか。

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