平野光雄 『時計の回想』
2022-03-19


昨日の記事の写真を撮る際、背景に使ったのは下の本です。

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■平野光雄(著) 『時計の回想』、書物展望社、1950

1948年から49年、元号でいえば昭和23年から24年にかけて、著者が書きためた時計随筆13編をまとめたもので、序文も含めて本文78頁の可愛らしい本です(たてよこ約15cmという判型も可愛らしいです)。

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私は存じ上げなかったのですが、平野光雄氏は時計趣味・時計研究の世界では有名な方だそうです。1909年に秋田で生まれ、幼時から時計に興味を持ち、東洋大学を卒業後は第二精工舎(現セイコーインスツル)に勤務して、趣味と本業が一体となった生活を送られ、時計に関する著作をいくつも上梓された…という、何だかうらやましい経歴の方です。

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とはいえ、平野氏が時計趣味の世界で生彩を放ち、同好の士と闊達にやりとりをされるようになるには、もう少し時間が必要です。(『時計の回想』に続く、氏の主著である『時計のロマンス』が出たのが1957年、そして『明治・東京時計塔記』が1958年のことです。この後、氏は60年代から70年代にかけて、時計関連本を次々と世に送りました。)

1950年、昭和25年といえば、終戦からようやく5年。
日本がまだ占領軍の統治下にあった時代です。

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(翻訳家・高橋邦太郎による序文)

この『時計の回想』に流れる情調も、戦災で失われた自他の時計コレクションに対する哀惜の念であったり、戦前のよき時代を回顧するノスタルジアであったり、一抹の寂しさを感じさせる色合いのものばかりで、まさに本書が『回想』と題されるゆえんです。(しかも本書が刊行される直前に、それを心待ちにしていた愛妻を喪うという悲劇が、平野氏を襲いました。)

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でも、それだけに昔日の思い出は宝石のように美しく、平野氏とそれに共感した関係者の思いが反映されて、この本はとても美しいブックデザインを身にまとっています。本文は練色(ねりいろ)の紙に茶色のインクで刷られ、これはもちろん活版です。さらに全ページに藍鼠(あいねず)の書名と大ぶりの飾り罫が配され、こちらはどうやら木版のようです。限定500部だからこその贅沢であり、それも畢竟平和が戻ったからでしょう。

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[時計]

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