天にウシを掘る
2021-01-02


ウシと天文といえば、おうし座のことがすぐ連想されますが、ここではちょっと視点を変えて、『銀河鉄道の夜』の世界に目を向けてみます。

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(小林敏也(画)、パロル舎版 『銀河鉄道の夜』より)

 「君たちは参観かね。」その大学士らしい人が、眼鏡をきらっとさせて、こっちを見て話しかけました。
 「くるみが沢山あったろう。それはまあ、ざっと百二十万年ぐらい前のくるみだよ。ごく新らしい方さ。ここは百二十万年前、第三紀のあとのころは海岸でね、この下からは貝がらも出る。いま川の流れているとこに、そっくり塩水が寄せたり引いたりもしていたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこつるはしはよしたまえ。ていねいに鑿でやってくれたまえ。ボスといってね、いまの牛の先祖で、昔はたくさん居たさ。」 
(『銀河鉄道の夜』、「七、北十字とプリオシン海岸」より)

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鮮新世(Pliocene)を意味する「プリオシン海岸」のモデルは、賢治がたわむれに「イギリス海岸」と呼んだ、花巻郊外を流れる北上川の河岸というのが定説です。賢治はここでウシの足跡の化石を発見したことがあり、その足跡の主を、作中の大学士に「ボス」と呼ばせているわけです。

ボス(Bos)は「ウシ科ウシ属」のラテン名で、ここには複数の種が含まれます。現在、飼育されている家畜牛も当然そこに含まれます。ウシ属の中で特に「牛の先祖」と呼ばれているのは、ボス・プリミゲニウス(Bos primigenius)のことで、これはあらゆる家畜牛の祖先種に当たり、「原牛」とも呼ばれます。

ただし、賢治が発見した足跡の主は、ウシはウシでも、ボスとは別系統の「ハナイズミモリウシ」だと判明しています。では、岩手にボス・プリミゲニウスがいなかったかといえば、やっぱりいたらしい…というのがややこしいところで、ここで少し話を整理しておきます。

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黒澤弥悦氏(奥州市牛の博物館)の「モノが語る牛と人間の文化(2)岩手の牛たち」[LINK]を拝読すると、大要以下のことが書かれています。

○1927年5月、岩手県南部の花泉村(現・一関市)でおびただしい数の獣骨が出土し、そこには2種類のウシの化石骨が含まれていた。
○1つは、現在ヨーロッパやアメリカにいる野牛(バイソン)に近い種類のハナイズミモリウシ(Leptobison hanaizumiensis)で、今から2万年程前の第四紀更新世後期の氷河期を生きた野牛である。
○もう一つは原牛(Bos primigenius)である。原牛は家畜牛の祖先種で、英名オーロックスの名で呼ばれることも多い。花泉で見つかった原牛も「岩手のオーロックス」と呼ばれたことがある。

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