フェイクと本物、そして物語
2019-05-02


フェイク・アストロラーベと、ちょっと毛色の似た話題をひとつ。

これも大いに驚きつつ読んだのが、カリフォルニア大学サンディエゴ校で、近世オスマン帝国史を教えるニール・シャフィール氏の『偽りのイスラム科学』というエッセイです。

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Nir Shafir: Forging Islamic Science

タイトルの後に「イスラム科学を描いた偽の細密画は、今や最も権威ある図書館や歴史書にも入り込んでいる。いったいどのようにして?」というリード文が続くこの記事。科学を主題にしたイスラムチックな歴史画が現在大量に贋作され、それがイスラム科学史の本を飾り、錚々たる博物館や図書館まで侵食しているという、これまた衝撃的な内容です。

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ある日、講義の準備をしていたシャフィール氏は、学生向け指定図書に選んだ本を前に当惑します。上の画像のような絵が、その表紙を飾っていたからです。

この絵は、昔の天文学者を描いたもののようです。塔のてっぺんで、ターバンを巻いた人物が望遠鏡で星を観測し、その下で弟子らしき男が、遥かな星を指さしています。さらにリンク先の原文には、絵の全体図が掲げられていますが、そこには別の望遠鏡を覗く人物や、地球儀を見ながら羽ペンで記録を取る男の姿が見て取れます。

 「色彩がいささか鮮やか過ぎるし、筆遣いがちょっと整いすぎているというのもあったが、私を大いに戸惑わせたのは望遠鏡だ。ガリレオが17世紀に発明して以来、望遠鏡は中東でも知られてはいた。しかし挿画にしろ、細密画にしろ、この品を描いた作品はほぼ皆無だ。」

望遠鏡ばかりではありません。地球儀もイスラムの古画にはめったに登場しないし、極めつけは「羽ペン」です。中東の学者ならば、伝統的に葦の茎を削った「葦ペン(リードペン)」を使ったはずなので、これは明らかに現代の贋作者の手になるものです。

同様の例は、今やあちこちで見られます。

天然痘の治療をする医師、虫歯の原因とされた奇妙な虫の姿をした魔物、人体の血管系を示す図…それらは過去の絵の模写だったり、アレンジだったりしますが(ちなみに上の望遠鏡の絵は、六分儀で星を観測する学者の姿が元絵で、贋作者がそれを望遠鏡に置き換えたものです)、そうした絵が現代のイスタンブールでは山ほど売られており、今や錚々たるコレクションにも入り込んでいるし、果てはオックスフォード科学史博物館の展覧会を飾るまでになっているのです(シャフィール氏はそう指摘します)。

さらに、そうした画像がひとたびネット上にアップされると、もはや人々は疑うことなく、それらの引用・再引用を繰り返し、イスラム科学に対する誤解まじりのイメージは、いよいよ強固なものとなっていきます。

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[古玩随想]

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