さて、エミルトン氏の部屋を後にして、自分自身の部屋に戻ります。
この「驚異の小部屋」で、最近少なからず存在感を発揮している(小部屋を圧迫している)のが、この天球儀です。
ニス塗りの加減も、古風な淡彩も、真に迫っています。
もちろん、これは本物のアンティークではなしに現代の複製品で、イギリスの作り手から買いました(彼はこういう品を一人でコツコツ作っているようでした)。印刷も精細で、これぐらい間近で見ても、破たんがありません。廉価なわりには、よくできています。
この天球儀で特徴的なのは、うしかい座がよく見るギリシャ風の半裸ではなくて、やけにあったかそうな北方衣装を着込んでいることです。その辺を手掛かりに調べてみると、大元はオランダのヨドクス・ホンディウス父子(父子ともに同名のJodocus Hondius。父は1563−1612、息子は1594/5−1629)が、1601年に制作した天球儀で、それをさらにイタリアのジュゼッペ・デ・ロッシ(Giuseppe de Rossi、生没年未詳。17世紀前半の人)がコピーした製品を複製したもののようです。
ロッシは商才にたけた人で、ホンディウスのオリジナルが、今やきわめて稀なのに対して、ロッシのコピー版は大量に売れたおかげで、アンティーク市場にも定期的に現れる…ということが、E. Dekker & P. van der Krogt の『Globes:From the Western World』(1993)に書かれていました。
天球儀本体はそういう次第として、ちょっと気になったのは、この架台です。一応それらしく時代付けしてありますが、どうもデザインが19世紀っぽくて、17世紀の天球儀には合わないような気がしました。でも、これもデッカーとクロフトの上掲書を見たら、下のような写真が載っていて、当時、既にこういう一本足(というか、台輪を1本のピラーで支える方式)の架台があったようです。
(ロッシが1610年代に売り出した地球儀・天球儀。中央のものが、ちょうど手元の品と同じ図像を貼り込んだ天球儀です)
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