流れる時の中で天文時計は時を刻む
2017-10-19


今日も天文時計の古絵葉書の話題を続けます。

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この2枚の絵葉書は同じ天文時計を写したものです。
左は1907年の差出しで、作られたのも同時期でしょう。
右はやや下って、1929年の消印が押されています。でも、写っている人々の服装からすると、もうちょっと古い時代に撮られた写真を元にしているように見えます。

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(天文時計に仕込まれたからくり人形を見物する観衆)

印刷技法に関して言うと、1907年の方は前回のリヨンの絵葉書と同じく、黒・水色・オレンジの3色石版。いっぽう1929年の方は、黒の網点(ハーフトーン)印刷に、水色とオレンジの2色の石版を刷り重ねてあります。(いずれの絵葉書も、現代のフォトクローム絵葉書のように、つやつやしていますが、これはニス引きのような表面加工が施されているせいです。)

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前回、「古絵葉書に写った古物には、いっそう古物らしい表情がある」と書きました。
この絵葉書を見ると、一層そのことを痛切に感じます。

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この天文時計は、チェコの歴史都市、オルミュッツ(Olmutz)の町にあります。
ただし、オルミュッツというのはドイツ語による名称で、現在の名乗りはチェコ語で「オロモウツ」。―この名称の変化からも、チェコという国と民族が、周辺の大国の間で絶えず揺さぶられてきた歴史を感じます。

土地の名称ばかりではありません。
実を言えば、このオロモウツの市庁舎に付属する天文時計は、今はもうありません。いや、あるにはあるのですが、この絵葉書のような姿では残っていません。

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以下、ポスト共産主義の東欧社会を研究している、クリステン・ゴッズィー氏のブログより。

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「手元にモラヴィア地方のオロモウツ市で撮った写真が何枚かある。その中には、おそらく1422年に建造された、有名な天文時計の写真も幾枚か含まれている。

1945年の5月、ナチスがオロモウツから撤退する際、彼らはこの中世の時計に火を放ち、破壊した。時計は、チェコスロバキア共産主義体制下の初期に、社会主義的リアリズム様式に基づき再建され、聖人や諸王を表現した以前の聖像は、すべて労働者や農民の像に置き換えられた。

何と融合的な時計だろう!」


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