これもシュナイダー氏の蒐集と重なりますが、1910年のハレー彗星騒動の絵葉書を探していたら、こんな1枚が目に留まりました。
大火球のような彗星を目にして、逃げ出す者、銃で応戦する者、絶望的な表情で抱き合う者。街中が阿鼻叫喚の渦です。
(しかし中には、気球で後を追ったり、冷静にカメラを構える者も…)
慌てた旦那さんは、たらいに隠れて顔面蒼白。
奥さんや娘さんも、てんでに戸棚や樽に飛び込もうとしています。
寝所の夫婦は、何とか傘で災厄をしのごうという算段。
Weltuntergang ―― 「最後の審判の日」。
今まさに、恐るべき災厄が地球に迫っていました…
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というふうに一瞬思ったものの、ちょっと日付が合いません。
上のキャプションは「地球に向かう彗星。1899年11月14日」となっています。
あのハレー彗星騒動よりも10年以上前です。
日付けを見て、「ははーん」と思った方も多いでしょうが、これはハレー彗星ではなくて、もう一つの天体ショー、「しし座流星群」の場面を描いたものでした。
「しし群」は、ほぼ33年周期で出現し、76年周期のハレー彗星よりも、人々の生きた記憶に残りやすい出来事です (たいていの人は、生涯に2回ないし3回、それを目撃する機会を与えられています)。この1899年は、1833年の歴史的大流星雨のあと、1866年にも相当の流星群が見られたのを受けて訪れた、天文ファンにとっては、絶好の観測機会。
ただ、それを絵葉書作者が「彗星 Komet」と呼んだのは、市井の人々の意識において、流星と彗星が、いずれも空を飛ぶ星として常に混同されがちだった…という事実を裏付けるものとして、興味深いです。
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しかし、それにしても当夜のウィーン(版元はウィーンの会社です)は、実際こんな有り様だったのか?その答は、葉書の裏面にありました。
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