タルホ的なるもの…黒猫の煙草
2016-05-24


そういえば、京都に行く前、足穂でひとしきり盛り上がっていました。
いつもの理科趣味や天文趣味の話題に戻る前に、もうちょっとタルホ界を徘徊してみます。

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足穂の『一千一秒物語』には、「黒猫のしっぽを切った話」というのと、「黒猫を射ち落した話」というのが載っています。

前者は、黒猫をつかまえて尻尾を切ったら、キャッという声とともに、尾の無いホーキ星が逃げていくのが見えた…という話。後者は、何か頭上を逃げるものがあるので、ピストルで撃ったら、ひらひらとボール紙製の黒猫が落ちて来た…というもので、足穂氏は黒猫をずいぶん虐待しています。そして、虐待しつつも、やっぱり愛していたようです。

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下は、鴨沢祐二さんの「流れ星整備工場」の1ページ。
連れだって歩くのは、例によってクシー君と親友のイオタ君。

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(初出は「ガロ」1976、『クシー君の発明』1998所収)

「そういえば、煙草がほしいね。」
「うん、一箱買おう。」

「≪黒猫≫なんて聞いたことないね」
「でもリボンがしゃれてる」

二人が愛煙家になったわけは、シガレットのボール紙製パッケージが、チョコレートのそれよりもずっと素敵で謎めいているから。

二人はこのあと、黒猫の導きで、謎の「アナナイ天文台」を訪ね、キセノン博士から同じ煙草を勧められます。

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   ★

この黒猫の煙草は、実在のブランドです。

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スペイン貴族のドン・ホセ・カレーラス・フェレールが、19世紀にロンドンで興した「カレーラス煙草会社」が売り出したもので、その物語はWikipediaの「カレーラス社」の項に詳しく書かれています。

■Carreras Tobacco Company:Black Cat
 [URL]

その冒頭部の適当訳。

「ブラックキャット」は、今や世界中で売られている煙草の銘柄だが、この名前はささいなことから広まった。その元となった黒猫は、ごくふつうの飼い猫で、ドン・ホセのウォーダー・ストリートの店の窓辺で、いつも何時間も丸くなって眠っていた。まだ20世紀になるずっと前の話である。


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[稲垣足穂]
[フープ博士、クシー君etc.]
[版画・エフェメラ・切手など]

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