僕だけの夢の望遠鏡
2015-10-05


(昨日のつづき)

貧しげな風情と、そこに漂ういじらしさ。
この望遠鏡のレンズセットも、まさにそうした品です。

禺画像]

ダウエル光学(DAUER)というのは、昔たくさんあった、廉価な望遠鏡を供給していたメーカーの1つで、「天文ガイド」誌なんかで、乏しい小遣いを握り締めた少年たちの幻想を、盛んにあおっていたものです。

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口径40ミリといえば、文句なしに小望遠鏡です。
それをさらに紙の筒で自作する―いや、自作せざるを得なかった―天文少年の心を、思いやるべし。

このレンズはデッドストック品なのか、実際に使われた形跡はありません。
でも、同等品を買って、せっせと工作に励んだ少年が日本の各地に必ずいたはずです。彼がはじめて筒先を空に向けたときの胸の高鳴りを、私ははっきりと想像することができます。そして、そのファーストライトがどのような結果だったかも…。

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おそらく色収差でカラフルな輪郭を持った月の表面に、辛うじてクレーターが見えるぐらいだったと思います。あるいは、それすら見えなかったかもしれません。その結果は、もちろん彼を満足させるものではなかったでしょう。彼がそこでただちに次の目標に向かって、勇躍邁進したならば大いに結構です。

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でも、このレンズセットが、お父さんやお母さんに無理を言って、やっと買ってもらったものだとしたら…。彼は決してそんな割り切り方はできないし、お手製の望遠鏡に、やっぱり深い愛情を抱いたことでしょう。そして、その愛情は深い悲しみや怒りを超克した末に生まれたものだけに、私はそこに何とも言えないいじらしさを感じてしまいます。

   ★

こんな風に見て来たように書くのは、何を隠そう私にも似た経験があるからです。
それをこのレンズセットに投影して、過剰に反応してしまう自分を抑えることは、なかなか難しいです。

人間を形作っているのは、こういう瑣末な経験の集積に他ならないと思います。


[望遠鏡]

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