長野氏に対する毀誉褒貶はさておき、氏のデビューは、まさに日本の理科趣味におけるエポックメーキングな出来事だったと思います。
年が明けて年号が平成に替わると同時に、氏のデビュー作『少年アリス』が単行本化され、2年後の1991年には『天体議会』が、さらに3年後の1994年には『鉱石倶楽部』が発刊されました。現在の理科趣味風俗にはっきりとした形を与えたのは、長野氏による、これら一連の初期著作でしょう。
そこに盛られた「感官に訴える耽美趣味」、「鉱物の偏愛」、「過剰な少年性の讃美」…こうした特徴は、いずれも現在の理科趣味風俗周辺に瀰漫(びまん)しています。
最後の「過剰な少年性の讃美」は、「過剰な少女性の讃美」を本質とする「萌え」と対をなすもので、この辺が昨日書いたオタク文化―もっと明瞭に書けば「腐女子文化」との連続性を感じる点です。
長野氏の作品傾向が、その後、フィジカルな少年愛へと遷移していったことを問題視する声は多いですが、想念としての少年世界に惑溺するという本質において、BLと「理科趣味風俗」はそう遠いわけではない…というのが私見です。(そしてまた「理科趣味風俗」論は、ジェンダー論との親和性が高いように感じます。)
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長野氏の功績としてもう1つ落とせないのは、90年代後半(だと思いますが)に運営されていた、高円寺の「耳猫風信社」というセレクトショップです。
(雑誌「MOE」1998年12月号より)
往時の空気を伝える貴重な一文が以下に綴られています。
私自身は当時のことをまったく知らないので、すべて伝聞と推測によるのですが、どうやら熱烈なファンによって支えられていた、一種独特なムードのお店だったようです。
店舗として存続できなかったのは、そういう店にありがちな、粗放な趣味的経営のせいかもしれませんが、そこに陳列されていた、「様々な種類の鉱石、プリズムやアルコールランプ、三角フラスコや試験管等の理科実験用具。奇麗な鉱石の写真やポストカード。 小物類、メモ用紙、レターセット、インク瓶、硝子ペン等々」(上記引用先より)というラインナップは、現在流通している理科趣味グッズの祖型となっている可能性が高いと思います。そういう意味でも、長野氏の存在は、その後の理科趣味の性格付けに、大きな意味があったといえます。
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理科趣味グッズということで、もう一人お名前を挙げておくと、清水隆夫氏(現・ダーウィンルーム)が、東京・下北沢に教育雑貨店「THE STUDY ROOM」
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