リアリズム問答…理系アンティークショップ「Q堂」にて
2014-06-29


本日3投目。

   ★

「よお、いらっしゃい。」

どう、何か面白いものは入った?

「面白いかどうかはお客さんが決めることだから…。でもTさんは、こんなの好きでしょ?イタリア製の星座早見盤。ほら、前にジョバンニが見たような早見が欲しいって言ってたじゃない。」

ああ、これ!よく見つかったねえ。ネットでは見たことあったけど、実物は初めて見るよ。

「いいでしょう。保存状態もまあまあだし、それにメーカーの元袋が付いてるのは珍しいと思って。」

むう、確かに。と、値段は…

「〇万円。まあ、リーズナブルだと思うよ。市に出したって、すぐに買い手は付くだろうし。Tさんなら1割引いてもいいかな。」

はあ、足元を見るねえ。じゃあとりあえず内金を入れるから、来月の頭まで取っといてくれないかな。今月はもうカードも使いたくないし。

「了解。毎度おおきに。」

ふん、こっちこそおおきにお世話様さ。でも、ありがとう。真っ先に声をかけてくれて嬉しいよ。…それにしても、Qさんはいいよね。こんな浮世離れしたモノを商って、それで生活できるんだから。世間は今、集団的何とかでカンカンガクガクなの知ってる?

「そうバカにしたもんじゃないよ。何せ昔のものは嫌ってほど見てるんだから、歴史に学ぶことにかけちゃ、そう人後に落ちないさ。今の世間の動きだって、この慧眼にかかれば…ね。まあ、自分はそうだけど、若い人を見てると、ちっと心配がないでもない。」

へえ、Qさんにしちゃまともなこと言うね。

「いや、こないだ店に来た若い子と話しててさ、『命をかけて愛する者を守りたい、愛する国を守りたい』っていう気持ちが分かるっていうんだ。同じ世代でそういうことを言う人の気持ちはよく分かるって。真顔でそういうもんだから、こっちも一寸妙な気になってね。」

若者らしい一本気じゃない。まあ、それにつけ込む輩がいるのでいかんけど。

「愛する者のために命をかける…そう思っただけで気分が高揚して、喜んで銃を手に取る若者って、いつの時代にも、どこの国にもいるのは分かるよ。ただ、心配なのは、ちょっとそこにリアリズムがね…。」

それは求める方が無理でしょ。Qさんだって、僕だって、鉄砲担いだ世代じゃないし、リアリズムと言ったら五十歩百歩じゃない?

「思うに、『戦争のリアリズム』って言葉自体、ちょっと抽象的な気がするんだ。でもさ、それがこの商売のいいところでね。…ほら、例えばこの本。こんなのを見た日にゃ、言葉も何もすっ飛ばして、戦争が何をもたらすか分かるじゃない。」

何、これ。戦前の本だね。


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