円錐、彗星、光の都(前編)
2013-10-26


どうやら復調しました。

昨10月25日は稲垣足穂の命日だったので、1日遅れですが、そのことを書きます。
以前は毎年この日になると、幽冥界を旅する足穂氏を偲んで、その好みそうな品をお供えするのが、このブログの慣例でした。しかし、足穂氏も今年で没後36年。弔い上げが済んだから…というわけか、このところその慣例も沙汰やみとなっていました。
でも、ふと思い立って、今年は旧慣に従います。

今年お供えするのは、1個の円錐体。

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足穂氏は円錐が好きでした。
過去圏と未来圏を表す2個の円錐が、「現在」を表す頂点で対称的に接しているミンコフスキーの光円錐。そんな時空モデルも愛していましたし、円錐の切断面に表れる形状(円錐曲線)から、非ユークリッド幾何学に談が及ぶこともありました。

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(稲垣足穂「宇宙論入門」の一節。筑摩版「稲垣足穂全集5」より)

そして円錐曲線、すなわち円・楕円−放物線−双曲線は、天体の軌道をも示すものですから、足穂氏は円錐の表面を疾駆する彗星を幻視することもたびたびでした。

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そんな足穂氏に飽かず眺めてほしい、これは円錐の数学授業用の分割模型です。

   ★

足穂氏の空想はさらに続きます。

タルホ世界の重要なキャラクター、ポン彗星。これは19世紀に発見された「ポンス・ヴィネッケ彗星」という実在の周期彗星ですが、足穂氏にかかると大いに擬人化されて、その楕円軌道を狭めつつ、仮想の円錐上を、いつかその頂点にまで上り詰めることを夢見ている彗星ということになります。

そのポン彗星が円錐体の頂点に描いている夢が「美しい都」であり、それは彗星の尾が地球に触れるか、はたまた神戸のさる秘密倶楽部において特殊な装置を作動させるかすると、我々の目に映じるのだといいます。

“いや、そうではない。この円錐は決して仮想のものではなく、この地のどこかに巨大ならせん状の円錐体が「二十世紀須弥山」として聳え立っており、その頂上にこそ、光の乱舞する天体国「パルの都」はあるのだ”…という説もあります。

ポン彗星の都か、パルの都か、ともあれ足穂氏の脳髄には昔から円錐が住み着いており、その頂点には不思議な光の都が存在するらしいのです。

その都市のモデルとなったのは、1枚の絵葉書でした。

(後編につづく)
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