アンティーク星図の話アゲイン
2012-10-30


記事が中断する以前、アンティーク星図の話をしていました。が、「今度は古星図の彩色について書く」と予告したところで記事が途切れていたので、改めてそのことについて書こうと思います。

今回の記事を書くにあたっては、以前ご紹介した、Nick Kanas 氏の『STAR MAPS』に加え、Kevin Brown 氏の以下のページも大いに参照しました。

Geographicus Antique Map Blog : Is my Antique Map Authentic?
 

以下、私なりに咀嚼して述べます。

   ★

古星図の彩色については、版元が彩色した上で販売した「純度100%」の正統な彩色も少数ながら存在します。しかし、多くの場合は、彩色なしで出版された絵図に、いずれかの時点で、誰かが色付けしたものが、現在商品として出回っているわけです。
後者については、それこそピンからキリまで千差万別です。

たとえば出版直後に、購入者がプロの彩色職人に色付けをさせたものは、限りなく「純度100%」に近い扱いを受けます。あるいは購入者自らが色を塗ったものもあって、この場合は、彩色の年代は星図そのものと同じぐらい古く、時代は十分ですが、所詮は素人の手わざですから、その巧拙はさまざまです。中には「子どもの塗り絵」レベルの粗雑なものもあるようです。

星図の彩色は、それが出版されてから現代に至るまでのどの段階でも起こり得ます。
現代の業者が、利益を大きくするために、モノクロ図に彩色を施すこともしょっちゅうです。

ただ、古星図(古地図)が他のアンティークと違うのは、こういう「現代における彩色」が、商品の評価にマイナスに働かないことです。普通のアンティークであれば、日本でも、欧米でも、原状に何か手が加わっていると、それは「瑕疵」として表記されるのが普通だと思います(たとえ「professionally repaired」とか「neatly repaired」と書かれていても、“直し”それ自体は、マイナス要素であることに変わりはありません)。

しかし、古星図の場合は、たとえ現代の彩色であっても、それが巧みになされている限り、「偽物」扱いされることなく、むしろ商品の価値を高めるものと考えられているのが特徴です。したがって、業者も何らやましさを感じることなく、堂々と「Later colored」と表記しています。

このことは、真贋に潔癖な日本人からすると、ちょっと理解しにくい点だと思います。私も最初、こういう現代の彩色品を、フェイクまがいのあざとい品のように感じていました。しかし、実際はそうではなくて、古地図ディーラーである上記 Kevin Brown 氏も、「巧みな彩色は、たとえそれがごく最近になされたものだとしても、ほぼ常に地図の価値を高める」とハッキリ書いています。

で、私が腕組みをした末に思いついたのは、古星図の彩色は、たぶん日本の骨董に例えると、「表具」に近い感覚ではないかということです。たとえば仏画なんかだと、時代のついたウブな表具が好まれたりということはあるにせよ、一般にはボロボロの表具よりは、きちんと表装し直されているほうが、市場で高く評価されるのと似たような現象だろうと思います。…とすると、彩色なしの昔の星図は、いわば「マクリ」(表装されてない書画)のようなものでしょうか。


続きを読む

[星図]

コメント(全2件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット