無限の時、夢幻の出会い
2012-07-30


  もっと一緒に居たいって言うの
  あなたが生まれて初めて出会った
  恋をした女の子がわたしで
  それからずっと一緒に居られていたら
  そんなことばかり考えて 眠りにつくんだ

たとえ3日が60年に伸びても、別れの苦しみは変わらないし、反対に60年分の思いを3日間に詰め込むことだってできないわけではない。

   ★

「繭とシリウス」は、その繊細な自然描写においても出色です。
蝉が死に、トンボが交尾し、鈴虫が鳴き、クモの巣に冷たい雨粒が光り、雪虫が飛び…
虫たちの生と死、季節のめぐり、星のめぐり。
そこに展開する、ヒトの出会いと別れ。

この作品を読むと、ヒトの有限性に根ざす、心の中の「根源的寂しさ」といったものが、呼び覚まされる感じがします。と同時に、永遠というものを作者が見据えていることも、また確かだという気がします。いや、むしろ作者が言いたいのは、永遠は一瞬であり、一瞬は永遠であるということでしょうか。

本当は、主人公は高校生のカップルでも、年老いた夫婦でも、親子でも、きょうだいでも、誰でもよかったのかもしれません。それだけ普遍的なテーマだと思います。


(…と大上段に論じましたが、実は作者の小森さんが描きたかったことは全然別で、「切なくピュアなラブ・ストーリー」(カバーより)以上でも以下でもないのかもしれません。しかし、たまたま今の私が読んだら、上のように感じたということです。)

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