驚いてばかりではいけないので、通常の記事も書きます。
素朴な素焼きのバッジ。3センチ弱のかわいらしい品です。
2羽の鳥の足元には、SCHWAN と ADLER の文字が浮き出ています。
もちろん、はくちょう座とわし座をかたどった品です。
星の部分は黄色く塗られており、他にも白鳥は白、鷲は緑の絵の具が残っているので、元は全体が彩色されていたようです。
他にもいろいろな星座があって、私の手元には今10個ばかり集まっています。
これらのバッジは、1930〜40年代のドイツで、ある目的のために作られました。
バッジのテーマは星座ばかりではありません。動物あり、建物あり、乗り物あり、歴史上の人物あり。素材も、陶器以外に磁器、ガラス、金属など、実に多種多様なバッジが作られていました。
あるいは、フランスのフェーヴを連想される方もいると思いますが、実際、これらのバッジの一部はフランスに送られ、フェーヴに流用されたとも言われます。
しかし、このバッジのそもそもの目的は、フェーヴとはまったく異なります。
かつて「冬季救貧運動」というのがありました。原語は Winterhilfswerk(ヴィンターヒルフスヴェルク)、略してWHW(ヴェーハーヴェー)。
ナチス時代のドイツで盛んに行われた募金運動のひとつで、これらのバッジは、その募金者に与えられた景品なのです。
(ペルセウスとペガスス)
WHWは、趣旨としては日本の歳末助け合い運動のようなものですが、内実はナチの国策そのものであり、ヒトラーに忠誠を誓った青少年組織・ヒトラーユーゲントやドイツ女子同盟が、その運動の先頭に立って働いていました。
(おおぐま)
バッジを身につけることは、即ち「良き国民」であることを示すサインであり、しかもバッジのデザインはしょっちゅう変わったので、支部同士が募金額を競い合うムードも手伝って、人々は頻繁に募金せざるをえなかったといいます。何とも息苦しい話です。
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この小さなバッジを前に、人はいろいろな思いをこらすことができます。
天上の星は澄んだ光を放ち、星座の神話は甘美で、バッジの姿形は愛らしい。
しかし、その歴史的文脈はいかにも苦く、否応なく省察を迫ります。
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