梅雨本番。夜になっても、星の光はまったく拝めません。
ガラスの銀河模型の話題は涼しげでいいのですが、蒸し暑さで鬱屈した気持ちをぶつける相手としては不適なので、今日も別の話題です。
以下、本日の天候そのままに、粘着的な長文です。
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『銀河鉄道の夜』に「天気輪の柱」という謎のアイテムが登場します。
まず、ジョバンニがいじわるな級友にからかわれ、親友カンパネルラとも気まずくなって、一人ぼっちで町はずれの丘に上るシーン。
そのまっ黒な、松や楢の林を越えると、俄かにがらんと
空がひらけて、天の川がしらしらと南から北へ亘っている
のが見え、また頂の、天気輪の柱も見わけられたのでした。〔…〕
ジョバンニは、頂の天気輪の柱の下に来て、どかどか
するからだを、つめたい草に投げました。
ジョバンニはここで夢うつつの状態となり、銀河鉄道の世界に入り込んでいきます。そのイリュージョナルな体験の中で、天気輪の柱は不思議な変形をして、彼を銀河鉄道へと導きます。
そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつか
ぼんやりした三角標の形になって、しばらく蛍のように、
ぺかぺか消えたりともったりしているのを見ました。それは
だんだんはっきりして、とうとうりんとうごかないようになり、
濃い鋼青(こうせい)のそらの野原にたちました。いま新らしく
灼いたばかりの青い鋼の板のような、そらの野原に、
まっすぐにすきっと立ったのです。
天気輪の柱は、物語の最後でもう1回登場します。
現在もっともポピュラーな「第4次稿」にはありませんが、それ以前のブルカニロ博士が登場するバージョンでは、ブルカニロ博士がジョバンニと言葉を交わし、去って行く場面に天気輪が出てきます。(各バージョンは、渡辺宏氏の「銀河鉄道の夜・原稿の変遷」で読むことができます。
[URL])
「あゝではさよなら。これはさっきの切符です。」博士は小さく
折った緑いろの紙をジョバンニのポケットに入れました。
そしてもうそのかたちは天気輪の柱の向ふに見えなくなって
ゐました。ジョバンニはまっすぐに走って丘をおりました。そして
ポケットが大へん重くカチカチ鳴るのに気がつきました。林の
中でとまってそれをしらべて見ましたらあの緑いろのさっき
夢の中で見たあやしい天の切符の中に大きな二枚の金貨が
包んでありました。(第3次稿より)
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天気輪とは賢治の造語で、そういう物がこの世にあるわけではありません。
したがって、ウィキペディアが天気輪の説明として、 「天気輪、天気柱もしくは後生車は、おもに東北地方の寺や墓場の入り口付近に置かれている輪のついた石もしくは木製の柱のこと。〔…〕太陽柱といわれる気象現象の別名でもある」 とするのは、妙な叙述です。事実は「天気輪の正体として、後生車説や太陽柱説を唱える人もいる」というに過ぎません。
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天気輪をめぐる諸説については、垣井由紀子氏によるレビューがあります(西田良子編著『宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を読む』、創元社、2003. pp.178-179.)。それによれば、大まかに言って、宗教的意味合いを重視して解釈する論と、天文現象に結びつける論とがあるようです。
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