2010-03-28
「田舎の煙突から夜間に飛び出したもえがらのようなものが、それを取巻く環状のものと共に浮んでいた。〔…〕土星は何も初めて眼にするわけでない。遠くの傘付電球のような印象を与えて、遥かな沖合を通って行くのは僕も数回眼にしたことがある」
「この先生は遠眼鏡で覗いても吹き出したくなるほど可笑しな代物だが、肉眼で接すると一段とへんてこな感銘を与える。消え入りたげな黄橙色の光を放って、中心軸の周りを独楽のように旋転しているが、名物の環だけはじっと静止している。」
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前回の記事で書いたように、足穂は土星を初めて見た印象を、昭和15年(1940)頃に「遠い電灯の傘みたいな土星」と記していますが、それが(B)にそっくり生かされています。また、(A)では「写真では子供の時からお馴染」とあるのが、(B)では「遠眼鏡で覗いても吹き出したくなるほど可笑しな代物だが」と変わっていますし、「初めて眼にするわけでない…僕も数回眼にしたことがある」というのも、実体験に裏打ちされた言葉でしょう。その色彩描写にも、具体性が増しているようです。
まあ、これはごく些細な一例ですが、丁寧に見ていけば、もっと類例はあることでしょう。少なくとも、「望遠鏡体験がその作品に影響したか?」という問いには、はっきりYESと答えられそうです。
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