続々・乙女の星空
2025-08-08


水平線に幽愁を漂はせて淡(うす)い新月の出る宵などは、私はもの悲しい思ひにつまされるのでした。」(野菊)

 「このあはれ深きローマンスの秘密をこめし指輪はおぼろに冴えゆく暁の明星のやうに閃きました。」(同)

 「あの砂丘の後の洋館の前をそゞろ歩きをしました。あたりは、いつとはなしに黄昏(たそがれ)て夕暗(ゆうやみ)は忍び足して近より、遥(はるか)み空には銀の星が輝きました。―マリアの瞳のやうに―。(名も無き花)

 「滋子(しげこ)の居る部屋の窓にも、外面(とのも)の月の光は流れ入った。滋子は、ペンを捨てゝ月の光さしこむ窓辺によった。あゝ何んといふ静かな美しい、それは月の宵だったらう。滋子が、窓によって、恍惚(うっとり)と月光に浸って居る時、何処(いづこ)の空からか〔…〕」(山梔の花)

 「その春の夜半を人影さす寮の窓の辺(ほとり)に静に寂しく月光に濡れて咲き匂ふた欝金桜(うこんざくら)の花こそは哀れに」(欝金桜)


「月光さす窓の中(うち)には、若き処女(しょじょ)が一心こめて鑿(のみ)を振(ふる)ふて冷たい大理石に暖かい命を生かさうと、細い腕(かいな)に力をこめて槌を振ふ―。〔…〕み空の新月が円(つぶ)らになって、やがてまた三日月の銀(しろがね)の挿櫛(さしぐし)と浮かぶ頃までゝあった。」(同)

   ★

これを見て気づくのは、勢い込んで探したものの、「お星さま」はあんまり登場していないことで、特に星座名はさっぱりです。主役はむしろ「お月さま」で、夜空に浮かぶ銀の月や、部屋の中を照らす月光なんかが、乙女心を捉えていたように読めます。

これはある意味当然で、1920年の段階では、先に言及した、野尻抱影『星座巡礼』(1925)も、山本一清『星座の親しみ』(1921)も、古川龍城『星のローマンス』(1924)も出る前ですから、いかに本好きの少女でも、星座趣味はまだ視界に入ってなかったし、それを語る語彙もなかったのでしょう。

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