破廉恥漢に、ライオンゴロシのブーケを―。
さて、ライオンゴロシのつづき。
小川洋子さんが、ライオンゴロシのネタをどこから仕入れたかは不明ですが、ここで少しライオンゴロシの謎を追ってみます。
まず、前回引用したウィキペディアの記事は、清水秀夫氏の『熱帯植物天国と地獄』(エスシーシー、2003)を典拠に挙げています。ウィキペディアの出典リンク先で、その中身を一部閲覧できますが、件のエピソードについて、著者の清水氏は、先行書からの引用に続けて、「多分に作り話的要素はありますが、現物の凄まじい棘に接してみて、また実際に自分の手から血を流してみて、私自身その可能性を否定する気にはなれません」と、その真実性に一定の留保をつけています。
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さらにグーグルで書籍検索すると、川崎勉(著)『世界の珍草奇木』(内田老鶴圃新社、1977)という本が、ライオンゴロシを紹介する古い例として出てきます。同書は昭和52年に上梓されてから40年近く、今も版を重ねているロングセラーですから、その影響力はかなり大きいと想像しますが、そこには出典不明のまま、こんな記述があります。
「ライオンがその成熟期にライオンゴロシがはえている地に入ると、木質の果実のかたい刺はたちまちライオンの足にささり、歩くたびに深く肉に食いこんでいく。食いこんでいくにつれて痛みが倍加する。苦痛にたえかねて、もがけばもがくほど巨大な逆刺は、肉に深く食いこんでいく。もしもその果実を口でぬこうとすると、口の中に入ったらもうおしまいである。この逆刺は口唇に強くささってぬけなくなり、その口で物をほおばろうものなら、この果実は情け容赦もなく口唇を刺す。一口ごとに食物におされ、ライオンはそれをかんでぬきとろうとして口にきずをつける。ついには粘膜の中が化膿して、そのためライオンは物が食えなくなる。
〔…〕飢えと渇きと苦痛とで、やせおとろえて草原をいくライオンの姿は見るも無残である。
ついに力つきてその場に倒れ、草原に屍をさらすのは、まことに肌に粟する光景である。その屍もハイエナやハゲタカなどの掃除屋がかたづけ、巨大な白骨が横たわるころには、そのあたりにライオンゴロシの新しい群落ができる。動物の死による有機物は、この植物にとって絶好きわまる栄養となることであろう。じっさいライオンの口にこの果実がしっかりとくっついたために、そのライオンは餓死したことがたしかめられている。」 (川崎勉、『世界の珍草奇木』、pp.96-97より)
(川崎氏、上掲書より)
上で出典不明と書きましたが、この本の巻末には「参考文献」が列挙されていて、その中の一冊、
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